九月第四週


来週から冬学期の授業が始まります。自由で長い夏休みに何かを期待していたのですが、思っていたほどの成果は得られませんでした。それでもこの夏で印象に残ったことを書いておきます。後で読んでみればもっと大事なことだったと思い直すかもしれません。


七月後半のよく晴れた日に、僕は友達に誘われて区立美術館へ行きました。お昼過ぎに最寄り駅で待ち合わせ、少し早く着いた僕は近くの木陰があるベンチで安部公房の短編集を読んでいました。駅の隣には線路へ沿うように遊歩道が伸びていて、ベンチはその始まりにあります。遊歩道の先を見るとスマホを覗きながらうろうろする人が何人かいました。その日はポケモンGOが輸入されて数日後だったのですが、こんなに太陽が照っている日によくやる気になるなと思いました。僕は日光が苦手だからです。

区立美術館はその遊歩道をずっと歩いて行った先にあります。実は何の展示を観るのかよく知らないままやってきました。有名な漫画家の個展らしい。僕は知らなかったけど有名らしい人でした。

その日の美術館には小学生くらいの子供を連れた家族が多かったです。展示されているのは子供が好きになるような作風の漫画ではない、両親がファンなのか、もしくは夏休みの宿題で感想文を書くなりしなければいけない、そんな辺りだろうかと考えていました。展示を見て回るときは大抵、同じタイミングで会場へ入った人と最後まで行動を供にすることになります。僕もある家族連れと同じペースで見ていくことになりました。小学生くらいの子供が二人、たぶん兄と妹で、どちらも展示にあまり興味が無さそうでした。

作品はかなりシュールなものばかりでした。始めに展示されていたのは漫画で、パロディや風刺的な漫画のある1ページが額に入れて飾ってあり、それがたくさん壁にずらっと並べられていました。面白いというよりはよく分からない、気持ち悪い絵が多かったです。次のコーナーでは落書きにしか見えない人間風味のキャラクターがぬるぬると変な踊りをする動画を延々上映していました。子供の兄の方は「いったい何だよこれ」と言いながら落ち着きなく動いていました。僕もそう思いました。

最後のコーナーには立体物が展示してありました。といっても、かなり広い空間の中心にろくろがぽつんと設置され、その上にヤカンが置かれているだけです。ろくろは自動操作でたまに回り出して、たまに止まります。さすがに僕もこの作者は何がしたいんだろうと悩みました。芸術みたいなものを小馬鹿にするのが目的なのでしょうか。それにしては安直だしかっこ悪い。僕より少し遅れて子供たちがやってきました。彼らはヤカンを眺めて、ヤカンが回り出すと一緒にその周りを回り、止まると一緒に止まりました。僕はとても悔しかったです。


美術館を出るとちょうど午後三時くらい、太陽はより強く照っていました。駅へ向かって歩いてる途中、僕はいつから日に当たるのが嫌になったのか思い出そうとしていました。